「中小企業診断士は難関と聞くけれど、働きながらでも取れるのだろうか」
中小企業診断士は、経営コンサルタントに関する資格としては唯一の国家資格です。企業の経営状態を分析し、改善の道筋を示す専門家として位置づけられています。
ただしこの試験の難しさは、合格率の数字だけでは見えにくいところにあります。性格のまったく異なる2つの関門があり、それぞれで求められる力が違うためです。この記事では、令和7年度(2025年度)の実績をもとに、試験の全体像と学習の進め方を整理します。
中小企業診断士とはどんな資格か

経営を「診る」ための国家資格
中小企業診断士は、中小企業支援法にもとづく国家資格です。企業の財務状況や組織のあり方、商品の売り方までを幅広く見て、課題を見つけ、改善策を提案する役割を担います。
ここで先に押さえておきたいのは、この資格に独占業務はないということです。弁護士や税理士のように「その資格がなければできない仕事」があるわけではありません。それでも毎年2万人近くが1次試験に申し込むのは、経営全般を体系的に学べる資格が他に少ないためです。
実際、取得者の多くは金融機関や事業会社に勤めながら学んでいます。独立を前提としない「企業内診断士」という言葉があるほど、社内でのキャリアに活かす道が一般的です。
試験の基本データ
| 実施機関 | 一般社団法人 中小企業診断協会 |
|---|---|
| 受験資格 | なし(年齢・学歴・実務経験の制限なし) |
| 試験回数 | 年1回 |
| 1次試験 | 8月上旬(2日間・マークシート) |
| 2次試験 | 10月下旬(筆記) |
| 受験手数料 | 1次 17,200円/2次 15,100円 |
| 合格率 | 1次 23.7%/2次 17.6%(令和7年度) |
| 学習時間の目安 | 800〜1,000時間 |
数値は2026年8月時点で確認できたものです。学習時間は一般に言われている目安で、前提知識によって大きく変わります。日程・料金の最新情報は中小企業診断協会の公表内容をご確認ください。
試験は性格の違う2段階に分かれている

1次試験は7科目のマークシート
1次試験は、経営に関わる知識を幅広く問う選択式の試験です。2日間かけて7科目を受験します。
| 経済学・経済政策 | マクロ経済、ミクロ経済の基礎理論 |
|---|---|
| 財務・会計 | 簿記、財務分析、投資の意思決定 |
| 企業経営理論 | 経営戦略、組織論、マーケティング |
| 運営管理 | 生産管理、店舗・販売管理 |
| 経営法務 | 会社法、知的財産権、契約 |
| 経営情報システム | IT基礎、情報システムの活用 |
| 中小企業経営・中小企業政策 | 中小企業白書、各種支援施策 |
合格の条件は、総得点の60%以上を取り、なおかつ40%未満の科目が1つもないことです。得意科目で稼いで苦手科目を捨てる、という戦い方ができません。
一方で、この試験には科目合格制度があります。60点以上を取った科目は、その年を含めて3年間有効です。1年目に4科目、2年目に残り3科目という進め方が認められているため、働きながらでも計画が立てられます。
2次試験は事例問題の記述
2次試験は、1次試験とはまったく性格が異なります。架空の企業の状況が数ページにわたって示され、その企業が抱える課題と対応策を記述する形式です。
| 事例I | 組織・人事に関する事例 |
|---|---|
| 事例II | マーケティング・流通に関する事例 |
| 事例III | 生産・技術に関する事例 |
| 事例IV | 財務・会計に関する事例 |
合格基準は1次試験と同じく、総得点の60%以上かつ40%未満の科目がないことです。
なお令和8年度(2026年度)から、2次試験の口述試験が廃止されました。これまでは筆記合格者に対して面接形式の口述試験が行われていましたが、今後は筆記試験の結果のみで合否が決まります。
合格率から見た難易度
| 年度 | 1次試験 | 2次試験 |
|---|---|---|
| 令和6年度(2024) | 27.5% | 18.7% |
| 令和7年度(2025) | 23.7% | 17.6% |
1次と2次を同じ年に通過する、いわゆるストレート合格の割合は単純計算で4%程度になります。この数字だけを見ると、かなり狭き門に映ります。
ただし、この計算は実態より厳しく見えている面があります。2次試験を受けられるのは1次試験の通過者だけなので、母集団のレベルがそもそも違うためです。1次試験に通る力がついた人にとっての2次試験の壁は、4%という数字ほど絶望的なものではありません。
とはいえ、2次試験は勉強量がそのまま点数に結びつきにくい試験です。知識を覚えれば取れる1次試験と違い、限られた文字数で筋の通った答えを書く力が問われます。ここでつまずいて複数年かける受験者は少なくありません。
効率的な勉強法

1次試験は「財務・会計」と「企業経営理論」から
7科目のうち、最初に手をつけるべきは財務・会計です。理由は2つあります。積み上げに時間がかかる科目であること、そして2次試験の事例IVに直結することです。ここを固めておくと、後半の負担がまったく違ってきます。
次に企業経営理論。経営戦略・組織・マーケティングという診断士の土台になる考え方が詰まっており、2次試験の事例I・IIにつながります。
逆に中小企業経営・中小企業政策は、最後に回して構いません。中小企業白書の内容が中心で、年度ごとに数字が変わるため、早く覚えても薄れてしまいます。
過去問を「解く」より「分析する」
1次試験の学習は、テキストを最後まで読んでから過去問に進むより、科目ごとにテキストと過去問を往復するほうが定着します。1科目分のテキストを読んだら、すぐにその科目の過去問を5年分解く。この繰り返しです。
正誤を確認するだけで終わらせず、選択肢の一つひとつについて「なぜ誤りなのか」を説明できるところまで踏み込むと、応用が利くようになります。
2次試験は「書く」練習をするしかない
2次試験の対策で最も多い失敗は、知識の補強に時間を使ってしまうことです。2次試験で問われるのは知識量ではなく、与えられた情報から答えを組み立てて文章にする力です。
過去問を実際に手で書き、模範解答と見比べる。この地道な作業を繰り返す以外に近道はありません。特に事例IVは計算問題が中心で、対策した分だけ点数が伸びる領域です。他の事例で差がつきにくいぶん、事例IVが合否を分けることが多くあります。
学習スケジュールの例(1年プラン)
| 9月〜12月 | 財務・会計、企業経営理論を集中的に |
|---|---|
| 1月〜3月 | 運営管理、経済学、経営法務 |
| 4月〜6月 | 経営情報システム、中小企業経営・政策、全科目の過去問 |
| 7月 | 1次試験の総仕上げ |
| 8月 | 1次試験。終了後すぐ2次対策へ |
| 9月〜10月 | 2次試験の過去問演習 |
1次試験から2次試験までは約2か月半しかありません。1次試験が終わってから2次の勉強を始めるのでは間に合わない、というのが受験経験者の共通した実感です。1次の学習中から2次を意識しておくことが、ストレート合格の分かれ目になります。
取得後のキャリア
資格を取ったあとの進み方は、大きく3つに分かれます。
独立してコンサルタントになる道。公的機関の専門家派遣や、商工会議所の相談業務から実績を積む人が多いようです。ただし独占業務がないため、資格だけで仕事が来るわけではありません。何の分野に強いのかを自分で作る必要があります。
企業内診断士として働き続ける道。実際にはこちらが多数派です。経営企画や事業開発の部署で、学んだ知識をそのまま使えます。金融機関では、融資先の経営支援に活かす場面が明確にあります。
副業として関わる道。執筆や研修講師、中小企業の相談業務など、本業を続けながら関わり方を広げていく形です。
まとめ
- 中小企業診断士は、経営コンサルタントに関する唯一の国家資格。ただし独占業務はない
- 受験資格に制限はなく、誰でも受験できる
- 1次試験は7科目のマークシート。科目合格制度により3年かけて通過できる
- 2次試験は事例問題の記述。令和8年度から口述試験は廃止された
- 令和7年度の合格率は1次23.7%、2次17.6%。ストレート合格は4%程度
- 学習時間の目安は800〜1,000時間
- 財務・会計を最初に固めることが、1次と2次の両方に効いてくる
働きながら1年で駆け抜ける人もいれば、科目合格制度を使って3年かけて確実に進む人もいます。どちらが正しいということはなく、自分が確保できる学習時間から逆算して決めるべきです。
まずは1日あたり何時間を勉強に充てられるかを見積もってみてください。そこから、必要な期間が見えてきます。
なお、1次試験の財務・会計でつまずく人は多いのですが、ここは日商簿記2級の学習範囲と重なります。簿記から入って基礎を固めてから診断士に進む、という順序を選ぶ人もいます。



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